レッド ヘルメット オーキッド

「よし、つかまれ」と父が言う。

私は父の背中に掴まり大きく息を吸って、それから息を止める。

私を背中に乗せた父がプールの底まで潜っていく。

外からの声や音がくぐもり、コポコポコポと水の中特有の音がする。

私の両手が父の肩から離れそうになる。水の中で私の体が浮いてしまうせいだ。

頭上ではバシャバシャと泳いでいる人の水音がしていて、横を見ると歩いている人たちの足も見える。

プールの底に見えるのは、日の光で映し出されている水の揺らめき。

息が苦しい。

もう上にあがっていいのにと思うけど、父はスイスイとプールの底を泳ぎ続ける。

私はこれ以上は無理だと父の肩から手を離し、水上を目指す。

水面から顔を出すといっせいに音があふれ出す。

足が届かない深さまで来てしまっていたので、急いでプールの縁まで泳いでいく。

ぜいぜいと息を切らしている私を見て「お前、これぐらいも息を止められないのか」と父が笑う。

「できるわけないでしょ!なんでもっと早く上にあがってくれなかったの」と私が言う。

「次はもっと早くあがってよ」と言うと「わかった、わかった」と父が言う。

 

これは私が小学校低学年の頃の記憶です。

私と弟はいつの頃からか父から泳ぎを教わるようになり、練習が終わるとよく父とプールの底まで潜って遊んでいました。

子供の頃の父との楽しかった思い出として一番に思い出すのはこの記憶です。

 

父は、父の世代にしては背が高い方で体も大きく、体育会系の厳しいしつけをする人でした。

家の中だけでなく外でも声が大きくて、子供の頃一緒にお店に出かけると遠くの方から「おい!こっちだ!」と大声で私を呼ぶのでした。

急いで父のもとに駆け寄って「しーっ!みんなから見られるでしょ!」と私が言うと、「なんの、たいしたことない」と父は言うのでした。

私がアスファルトの上で派手に転び両手と両膝を大きく擦りむいても「なんの、たいしたことない。水で洗っとけ」と言い、足を挫いて帰ってきても「なんの、たいしたことない。湿布でも貼っとけ」と言っていました。

父の子供の頃のはなしを聞くと、時代のせいもあり父は私以上にハードに育てられ、ある程度の怪我であれば自分でどうにかしていたと話していたので、なんの疑いもなく私も自分と同じようにできると思っていたのでしょう。

 

父の大きな声や体育会系の厳しいしつけは、いつの頃からか私を萎縮させるようになりました。

私に何が起きても「なんの、たいしたことない」としか言ってもらえない私は大切には思われていない。そう感じるようにもなりました。

『ちびまる子ちゃん』に出てくる、たまちゃんのお父さんのように穏やかで、娘のことが大好きでたまらないようなお父さんだったらよかったのになとよく思っていました。

 

怖いのに、近づきたい。 理解できないのに、寄り添いたい。 嫌いなのに、愛されたい。

いつの頃からか、父は私にとってそんな存在になっていました。

 

それから何年も経って私は大人になり、結婚し、子供が生まれ、そして10年が経った頃、離婚することになりました。

結婚するのは簡単でも、離婚となると沢山の人達を巻き込み、傷つけることになるという事実をこの時改めて痛感しました。

一度は家族になった相手と憎しみ合い、争わなければならない現実は大きな黒い塊となって私の上にのしかかってきました。

毎日が不安で、怖くて、悲しくて。 毎日吐き気がして、毎朝4時に恐怖感で目覚めていました。

残念ながら円満離婚ではなかったので、家庭裁判所で離婚の話し合いをすることになりました。

 

初めて家庭裁判所に行く日が近づいていたある日、父から電話がありました。

「お前、家庭裁判所に行く日はいつだ」 電話に出るなり父が聞きました。

「○○日だけど、なんで?」

「その日は俺も一緒に行ってやる」

「え、いいよ。仕事があるじゃない。飛行機に乗ってわざわざここまで来るなんて。いいよ、いいよ。もういい年なんだし、ひとりで行けるから大丈夫だよ」

そう言う私に父はいつもの言葉をかけました。

「なんの、たいしたことない」

 

たとえ具合が悪くても、命に関わらない限り這ってでも仕事に行けという考えの父がこんな事のために仕事を休んで駆けつけてくれるなんて。

 

あぁ、そうだったのかと思いました。

本当は私もたまちゃんに負けないくらい、父から可愛がられていたのかと。

私は長い間ずっとプールの水の中から父のことを見ていて、だから苦しくて、だから父の声がはっきりと私のもとに届かなかったのか。

 

私はもっと早くにレッド・ヘルメット・オーキッドのエッセンスを摂るべきだった。そう思いました。

 

レッド・ヘルメット・オーキッド(オーストラリアンブッシュフラワー)

このエッセンスは、スターリングレンジ山脈で2番目に高いトゥールプルナップ・ピークで特別な状況下作られました。

この花は父親と子供の絆を深めるのを助けてくれ、父親が家族とすごす時間の大切さがわかるようになります。

このエッセンスを作るにあたって、太陽光だけでなく月光も必要でした。

月光を通すことで、女性的な要素が加わり、絆作りが可能になるのです。

また、未解決の父親との確執や、警察や校長先生、上司など権威のある存在に対する反抗にも効果があります。*1

男性に対して持っている否定的な感情の改善にも役立ちます。*2

 


引用:

*1 2021年 ネイチャーワールド株式会社

「大自然からの贈り物 こころと体を癒す世界のフラワーエッセンス」 199ページ

*2 2010年 株式会社河出書房新社 中村裕恵

「医師が教えるフラワーエッセンスバイブル」 157ページ

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