新しい光があたる場所
すべての命が望まれて生まれてくるとはかぎらない。
人生は平等じゃないから。
恵まれない環境で生まれてくる命もある。
それでも僕たちは願っている。
生まれてくるすべての赤ちゃんに祝福がありますようにと。
ようこそ この世界に。
生まれてきて おめでとう。
『コウノドリ』より
年の瀬の、世の中の誰もかれもが大忙しの時に私は誕生日を迎える。
ひとつ年を重ねるたびに思い出すのは、子供の頃に聞いた母のはなしだ。
年末の夜だったからか病院の中はしーんと静まり返り、分娩室にひとりで待たされるはめになった母は、もしかして自分は忘れられているのではないかと不安だったこととか、お正月を病院で迎えたこととか、母と同じ病室だったお母さんは元旦の日に男の子を産んだこととか。
「お正月にも赤ちゃんが生まれるの?」
まだ子供だった頃、驚いてそうたずねると、そりゃそうよと母は笑った。
「おせちと一緒にケーキも並ぶのって変じゃない?お年玉ももらうのに、その子ちゃんと誕生日プレゼントもらえるのかな」
私は顔も知らぬその彼の誕生日の心配をした。
きっと毎年クリスマスプレゼントをもらって日も経たぬうちに、誕生日プレゼントまでもらうことに、心のどこかで申し訳ない気持ちを感じていたからかもしれない。
晴れだろうと雨だろうと、雪だろうと嵐だろうと、両親が揃っていようといまいと、平和が守られていようと戦争の真っ只中だろうと、生まれてくるべき運命の命は、生まれてくるべき時に必ず生まれてくる。
生まれるべくして生まれてきたふたつの命の親となり、生まれることなく空へと帰ってしまった命を忘れられない私は、この事実に安堵し、この事実に胸を痛める。
人生は平等ではない。
今年もあっという間に一年が過ぎてしまった。
去年の今頃は新しい引っ越し先のこととか、子供たちの学校のこととか、私の転職先のことなど不安な気持ちを抱えながら新年を迎えた。
年が明け、さまざまなことが目まぐるしく変化していく中で気が休まることがなく、自分の人生のはずなのに『翻弄されている』という感覚が拭えなかった。
その時々で私のなかで首をもたげるのは「私が男だったら、もっと良い条件の選択肢があったのではないか」という思いだ。
『男だから 女だから』というものさしで自分の人生も、ほかのだれかの人生もはかるのはやめようとずいぶん前に決めたはずなのに、まだ心のどこかで『女だから損をすることが多い』という思いを抱えている。
人は自分が生まれてくる時代も国も環境も家族も性別も名前も、すべて生まれる前に決めてこの世に誕生するそうだ。
だとしたら、人生のさまざまな場面で目の当たりにする『不平等さ』さえもみずからの手で選んだものによる結果なのかもしれない。
だけどそのことを私はまだ素直に受け入れられずにいる。
「お前はあれだな」
先日わが家の遊びに来た父が言った。
「今は人生に打ち込むときなんだろうな」
『人生に打ち込む』なんて、面倒くさい響きの言葉だなと思う。
だけど…
目指すべき将来はわからないが、とりあえず自分に手が届くものだけを手に入れ、自分が行ける場所だけに足を運び続ければ、自分の生きる世界はひどく狭苦しいものになっていくだろうという危機感だけはある。*1
本当はわかっている。
たとえ私が男だったとしても、私は今と同じ場所にいるであろうことを。
問題なのは性別でもなければ、世の中の不平等さでもない。
昨日自分が与えられたものを、今日の感謝に繋げられない私の心もちが狭苦しい世界を作り出している。
ふりかえるひまもなく走り続けたけど、じぶんは今年、どんな景色を作ってきただろう。
思ったものが思ったようにできたとき、それはとても嬉しいものだ。
でも、思っていなかった形にできてしまって失敗かも、と思いながら、まてよ、ここをこうしたらだんだん好きになるんじゃ、と思うときもまた格別だ。 *2
誰もかれもが新しい年を迎える準備で忙しい年の瀬に、これまでの一年を振り返る。
明日昇る朝日は『一年の幕開け』という特別な意味をもって世界を照らすだろう。
新しい光があたる場所は、本当は自分で決められる。
来年は今年とは違う景色を作っていこうと心に決める。
今年も一年、本当にありがとうございました。
来年もみなさまにとって幸多き一年となりますように。
良いお年をお迎えください。
希望を失わずに、目標を達成できるようにサポートするエッセンス。
とくに、目の前にあることが困難過ぎて、あきらめるしかないような状況のときに助けてくれます。
不要になった思考パターンを手放して生きる力を取り戻し、自らを癒す能力を高め、再び前進できるように導いてくれるでしょう。
引用:
*1 2020年 中央公論新社 寺地はるな
『架空の犬と嘘をつく猫』ページ44/218
*2 令和4年 株式会社幻冬舎 吉本ばなな
『BANABA DIARY2023-2024 生きていく』
*3 2010年 株式会社河出書房新社 中村裕恵
『医師が教えるフラワーエッセンスバイブル』99ページ