一生に1回
太古の昔から人は空を見上げた。
嬉しいときも悲しいときも。
数えきれないまなざしのひとつに自分も参加している。*1
淡いピンクとパープルが混ざり合った空が夕暮れを告げる。
あれは、まだ幼かった娘が欲しがった綿あめと同じ色。
どうせ買うだけで食べないんだからと、結局買ってあげることは一度もなかった。
絵本に出てくるお姫様のドレスと同じ色だと娘は話していた。
一度くらい買ってあげればよかった。
『お姫様のドレスの色』をした美しい空を見上げながらそう思う。
だけど過ぎてしまった時間をやり直すことはもうできない。
LINEの通知音が鳴る。
友人からだった。
彼女と知り合ったのは、たしか私がまだ20代前半の頃。
もうかれこれ20年以上の付き合いになる。
私より少し年上の彼女は、出会った頃からバリバリのキャリアウーマンで、パワフルなママでもあった。
まだ学生気分で、未熟さと甘ったれた幼さしか持ち合わせていなかった私に、彼女はとても優しかった。
彼女の旦那さんの転勤で、海外へ引っ越すことになったと言われた時、あまりにも寂しくて、まるで見捨てられたような悲しさに襲われた。
「無事、結婚式が終わりました」というメッセージに続いて、ウェディングフォトが送られて来た。
彼女の長女が結婚したそうだ。
あんなに小さかったのにねと胸がいっぱいになる。
きらきらと輝く美しい花嫁姿。
末永く幸せでありますように。
「今年は良い事、悪い事、本当に色々ありました。会って話したいことが沢山あるよ」とメッセージが続く。
私もだよと心の中でつぶやく。
良い事も、悪い事も、今年は本当に色々あった。
空からゆっくり降ってくるのは、今年を締めくくる優しい光。
走り抜けながら、味わう暇もなく包まれるのがいい。*2
一生に1回しかなかった今年が終わる。
そんなふうに思うと、この1年にあったなにもかもが切なくて、ありがたくて、楽しく思える。*3
もうすぐ2023年が幕を閉じます。
あっという間の一年でした。
出会った時はまだ幼かった友人の子供が、いつの間にか大人になり結婚式を挙げました。
20年という歳月がこんなにもあっという間に過ぎてしまうのだから、一年が光のような速さで過ぎるように感じても無理はないと思いました。
今年は私にとって、心の中にため込んでいた未解決の感情やトラウマと向き合う一年でした。
そのため、苦しさや辛さを感じる時間が多くありました。
自分に起こることがどんなことであっても、それがその時の私が受け取るべきことであり、そこには必ず意味がある。
この事実を受け入れること自体が容易ではありませんでした。
それでもまた日は昇り、新しい一日が始まります。
その繰り返しのなかで、やっと気づけたことがありました。
それは普通の毎日に、信じられないほどの幸せが詰まっているということでした。
自分の人生に足跡を残してきた出来事や人々に囚われすぎて、このことに気付けずにいたから私は苦しかったのだと思います。
『一生に1回しかなかった今年が終わる』
この一年の間にふれた人の優しさも、与えられた愛情も、感じた痛みも、流した涙も、すべて過ぎ去ってしまったこと。
そう思うと、切なくて、ありがたくて、胸がいっぱいになります。
素晴らしい日々があなたのもとへとやって来るのではない。
素晴らしい日々へとあなたが歩いて行くのだ。
Rumi
人は、希望の光をたずさえて、輝きながらこの世界に登場することを私は知っています。
だからあなたには幸せでいて欲しい。
来年も再来年もその次の年も、毎年、あなたの『一生に1回しかない一年』があふれるほどの『良い事』で満たされますように。
今年も一年ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
希望を取り戻して前進することを助けてくれるエッセンスです。
未来に夢や希望を描けない時に、困難を乗り越えられるようにサポートしてくれます。
引用:
*1 2023年 株式会社幻冬舎 吉本ばなな 『BANANA DIARY 2024-2025 はなうた』
*2 2023年 株式会社幻冬舎 吉本ばなな 『BANANA DIARY 2024-2025 はなうた』
*3 2020年 株式会社幻冬舎 吉本ばなな 『BANANA DIARY 2021-2022 力をくれるもの』