恐怖症とロックローズ

20年以上前のことです。

アメリカで親知らずを3本、一度に抜くことになりました。

友人たちからは、抜歯後の数日間は痛みで大変だと聞いていましたが、私は痛みには比較的強い方なのであまり心配はしていませんでした。

抜歯をする当日になり、治療の椅子の上に横になっていると、目の上に少し重みがあるアイマスクのような物が乗せられました。

すると、暫くもしないうちに強い違和感を覚え始めました。

みるみる間に冷や汗が出てきて、まるで体全体が心臓になったかのような動悸を感じました。

いったい私に何が起こっているのだろうと疑問に思うのと同時に、一秒でも早くこのアイマスクをむしり取りたいという衝動と戦っていました。

きっと実際には数秒しか経っていなかったと思うのですが、もうこれ以上は我慢ができないと感じました。

そこで一度アイマスクを取って、上体を起こさせてもらうことにしました。

先生や歯科衛生士の方が困惑したような表情で「どうしましたか?」と訊くのですが、突然のことで自分でもよく理由がわからず「ごめんなさい、ちょっと・・・」と答えるしかありませんでした。

だからといって治療を突然中断するわけにもいかず、予定通りに抜歯をしてもらったのですが、治療の中頃くらいまで体中が冷たく感じるようなパニックの状態が続いていました。

 

世の中にはさまざまな恐怖症がありますが、私は閉所恐怖症です。

この事実に気付いたのは、この日の出来事がきっかけでした。

目の上に布など何かを載せて視界を塞がれると、まるで小さな箱の中に閉じ込められたような感覚に陥りパニックになってしまいます。

そのため、この事に気づいてからは、歯医者さんでは目を覆わずに治療してもらうようになりました。

けれどもこの日を境に、さまざまな事をきっかけとして閉所恐怖症によるパニックが引き起こされるようになりました。

 

たとえばレストランの個室などの比較的狭い箱型の空間で、他の人たちの間に挟まれるようにして座った時のことでした。

突然、歯医者さんで感じた時と同じような動悸や、居ても立っても居られないような息苦しさに襲われ、自分でも驚くほどでした。

この時は、理由を伝えて一番端の入り口に近い席に座らせてもらい、すぐに気持ちが落ち着いてほっとしました。

 

目を覆われることや狭い場所で身動きが取れないと感じるような状況が苦手だと分かってからは、この二つの状況になるのを避けて暮らせば、生きていく上でさほど支障はないだろうと思っていました。

 

ところがある日のことでした。

ある資格を取るために、試験会場となっている大学に行きました。

教室で試験が始まるのを待っていると、次々に人が入ってきて、それぞれが自分の受験番号の席に座っていきました。

広い空間だったうえに、受験者同士が一定の間隔を空けて座るように席が決められていました。

60人ほどの受験者が教室にいましたが、窮屈さなどは全く感じませんでした。そろそろ試験が始まるという頃に試験官の方が前後にあったドアを閉めました。

その時です。

歯医者さんで目を覆われた時のような動悸と体中が冷たくなるような感覚が始まりました。

「え?どうして?」と困惑しながらも、「試験なんかもう受けなくていいから、試験が始まって出られなくなってしまう前にこの教室から出たい」というどうしようもない衝動に駆られました。

その一方で、「大丈夫、他の人たちはみんな平気な顔して座っているじゃない。天井は高いし、ここは狭くないから大丈夫」と言い聞かせる自分もいました。

結局、しばらくするとなんとかパニックの状態が落ち着き、無事試験を受けることができましたが、ここで私は「自分の意志では勝手に出られない閉ざされた空間」によっても閉所恐怖症を感じることに気づきました。

いつの頃からか、それまでは全く平気だったのに、飛行機の中など「自分が好きな時に外に出られない」と感じると動悸が始まるようになりました。

 

日常の生活では、閉所恐怖症を引き起こすきっかけとなる状況に身を置く機会が少ないため、どうしても克服しなければいけないという必要性をこれまであまり感じていませんでした。

けれども、自分でも気づかないうちに、閉所恐怖症が少しずつ私の日常に染み出て広がっていき、それまでは何とも感じていなかったことでさえ苦手に感じ始めていることに気づきました。

これはどうにかしなければいけないと思い、手に取ったのはロックローズのエッセンスでした。

 

ロックローズは、強い恐れや恐怖感を克服するために欠かせないエッセンスです。

レスキューレメディにも含まれるこのエッセンスは、パニックの状態を短い時間で落ち着かせてくれます。

 

ロックローズはギリシア語の「太陽の花」という言葉からつけられました。*1

あらゆる緊急事態において、ロックローズの輝きは、まさしく太陽のように、心を照らす光明となります。

また、太陽はあたたかさの源でもあります。

ロックローズのエッセンスは、戦慄のあまり震える心に、あたたかさを注いでくれます。

パニックに陥った時には、その明るさが意識の明晰さをもたらしてくれます。

どのような危機的状況におかれたとしても、常に冷静さを保つことができるように助けてくれるでしょう。*2

 


引用:

*1 2007年 株式会社東京堂出版 東昭史

「バッチフラワー花と錬金術」90ページ

*2 2007年 株式会社東京堂出版 東昭史

「バッチフラワー花と錬金術」94ページ

 

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